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微生物のはたらき -Green Planet が微生物の体でつくられるまで

3月17日は、「みんなで考えるSDGsの日」だそうです。日付は、「み(3)んなでSDGsの17の目標について考えよう」という提言が由来なのだとか。
そこで今日は、環境汚染が問題になっている、従来のプラスチックに代わるカネカの素材のお話をご紹介します。

カネカ生分解性バイオポリマー Green Planet (以下、Green Planet)は植物由来の原料を使って、海水中でも生分解(微生物の働きによって自然の中で水と二酸化炭素に分解される)する新しい素材です。
Green Planet のことをお伝えする上で、切っても切り離せないのが「微生物」の存在です。なぜなら、Green Planet をつくるのも、分解するのも「微生物」だからです。目には見えないけれど、大切な存在、「微生物」に注目して、お話したいと思います。
今回は、Green Planet をつくる微生物のお話です。


そもそも、微生物って何?

微生物とは何?と辞書などを引いてみると、こんな風に書かれています。
「肉眼では見えないほど小さな生物の総称です。これらの微生物には細菌、ウイルス、真菌、原生生物などが含まれます。微生物は自然界に広く存在し、さまざまな役割を果たしています」
 
ここで言う、さまざまな役割の中には、人間にとって役に立つ役割もあります。たとえば、納豆をつくる時には納豆菌という微生物の働きが欠かせません。お酒や薬など、昔から人々は微生物の力を借りて生活をしてきました。
では、現代の私たちが力を借りているGreen Planet をつくる微生物とは、どんな生き物で、どうやってGreen Planet をつくっているのでしょうか。

見てみよう ~Green Planet をつくる微生物

上の画像で、丸いものが、Green Planet をつくる微生物です。微生物が栄養となる油を食べて、動物が身体に脂肪を蓄えるように、Green Planet を身体に蓄えます。Green Planet を蓄えていない状態では細長い形をしているのですが、Green Planetを蓄えると写真のように体積は10倍近くまで膨れ上がります。

微生物が身体の中に蓄えたもの(写真の白い部分)を取り出したものが、Green Planet になります。

微生物がGreen Planet をつくる仕組み

ここからは微生物がGreen Planet を体内でつくる仕組みを説明していきます。少しくわしい話になるので聞きなれない名前が出てきたりしますが、なるべくわかりやすくお伝えするので、気軽な気持ちで読んでくださいね。
Green Planetをつくるステップは、大きく4つの段階にわかれます。順番に説明していきましょう。

1.とりこむ ~微生物が栄養を取り込む

私たち人間が食事をして、エネルギー源を身体に取り込むのと同じように、微生物も糖や油などの栄養分を身体の中に取り込みます。Green Planet をつくる微生物(正しい名前はCupriavidus necator というそうですが、シンプルに微生物と呼んでいきましょう)では、植物由来の油を栄養にしています。

油を小さな分子の形でくわしく見ると、3本の鎖がひとつに束ねられたような形をしています。油を栄養として取り込むために、微生物は油の3本の鎖をバラバラにする“酵素”を出します。
油を最初に分解する酵素はリパーゼという酵素です。リパーゼは私たち人間が食事の中から油を摂取する時にも使われている酵素で、人間や微生物、他にも多くの生き物が油を分解するために持っている酵素です。
3本のまとまった形から、リパーゼの働きによって1本ずつのバラバラになった鎖は、脂肪酸と呼ばれます。

酵素とは、生物の体の中で起きる化学反応を促進させるタンパク質のことです。酵素の働きによって、物質が分解する化学反応や結びつく化学反応が進みます。この後も、酵素がGreen Planetをつくる上で重要な役割を果たします。

2.ぶんかい ~脂肪酸を分解する

微生物の体の中に取り込まれた脂肪酸をさらに分解していきます。脂肪酸の鎖はおもに炭素のつながりで出来ていて、植物の油の場合、炭素が8~24個くらいつながっています。
分解の過程でも複数の酵素が働いて、鎖の端っこから炭素を2つずつに切断していきます。切断された鎖の切れ端はAcetyl-CoA(アセチル コ・エー)という名前で、この物質は微生物の体を構成する細胞壁やタンパク質、DNAやここまでに出てきた酵素の材料にもなり、さらにはエネルギーを作り出す素にもなる物質です。

Acetyl-CoA(アセチル コ・エー):数字は分子に含まれている炭素の数をイメージしています

ここまでの過程は人間が油を消化する仕組みとも共通するので、さらに詳しく知りたい方は「β酸化(べーたさんか)」で調べてみてください。

3-1.くみたてる その1 ~Green Planet の部品{3HB}をつくる

植物由来の油を分解してできたAcetyl-CoA(炭素が2個)を、微生物は体の中で、Green Planet の部品に組み立てていきます。これは微生物にとっては、栄養分を体の中に蓄えておくために、小さな部品をひと固まりにしているようなものです。イメージとしては、私たちが食事で取った栄養をお腹のお肉として蓄えるのと同じです。

まず、Acetyl-CoA(炭素が2個)が2つつながった、炭素が4つの鎖(Acetoacetyl-CoA)をつくります。ここでは<PhaA>ファー・エーという酵素が働きます。

さらに<PhaB>ファー・ビーという酵素の働きで少し変化して{3HB}(炭素が4個)という物質になります。{3HB}がGreen Planet をつくる重要な部品の1つです。

<PhaA>と<PhaB>という酵素の働きで3HBをつくります。※もちろん酵素の形はイメージです

最後に<PhaC>ファー・シーという酵素の働きで、{3HB}同士を繋げていきます。こうして鎖が長くなったものが、プラスチック状の物質になります。(炭素の数はGreen Planet だと、おおよそ1万~10万個くらい)

ただ、この{3HB}だけがつながった物質(PHBと呼ばれています)は、非常にもろくて、使いにくい素材にしかなりません。

3-2.くみたてる その2 ~Green Planetの部品{3HH}をつくる

Green Planet は{3HB}に加えて、{3HH}(炭素が6個)という物質が組み合わさってできています。2種類を組み合わせることで、ちょうど良い性質になります。もちろん微生物の体の中で{3HH}も作っています。どうやって作るかというと、やはり脂肪酸から作られます。
「2.ぶんかい」で脂肪酸から2つずつ炭素を切断してAcetyl-CoAを作っていく、と説明しました。

例えば炭素が16個つながった脂肪酸が分解されていくと、炭素の鎖は14個、12個と次第に短くなっていきます。この鎖がちょうど6個になった時、さらに4個、2個と短くしていくのではなく、炭素が6個のまま、{3HH}という物質に変えるのが<PhaJ>ファー・ジェーという酵素です。

{3HH}が供給されると、<PhaC>は、{3HB}の間に{3HH}が混ざった鎖をつくります。すると、{3HH}を混ぜる量によって、ちょうど良い硬さや柔らかさをもった性質の素材になります。これがGreen Planet(化学物質の名称ではPHBHと呼ばれます)です。

4.たくわえる ~Green Planet を蓄える

こうしてできたGreen Planet を微生物は、体内に蓄えます。微生物にとっては、必要なエネルギーや体に変えて使うための養分です。わたしたちは、微生物がGreen Planetを消化してしまう前に、体いっぱいに蓄えたところでGreen Planetを取り出しています。

微生物の改良 -Green Planet を生産するための工夫-

Green Planet をつくる微生物は今から30年以上前、カネカの工場内の土の中から発見されました。ただ、最初に見つかった微生物が身体の中にGreen Planet を貯める量はほんのわずか。
大量に、効率よく工業的に生産するためには、微生物を改良する必要がありました。

長年の改良により、体内に大量のGreen Planet を貯め込めるようにしたり、色んな酵素の働きを強めたり弱めたりすることで、「2.ぶんかい」で説明した油の分解のスピードを高めることができました。それが、Green Planet 製品を届けられるようになった 大きな研究成果の1つです。

もうひとつは、「3-2.くみたてる」で説明した{3HB}の鎖の間に{3HH}をより多く取り込めるように<PhaC>や<PhaJ>の働きを高めるなどの工夫によって、{3HH}の割合をコントロールしたことです。この工夫によって、さまざまな用途にこたえられるGreen Planet を作ることができるようになりました。

微生物の改良は、今でも続けていて、近年では、これまで微生物の栄養にしていた植物油だけでなく、廃食用油を使えるようにする研究が実用化されました。
カネカ生分解性バイオポリマー Green Planet® JR西日本ホテルズと廃食用油を用いた資源循環を開始 | 株式会社カネカ (kaneka.co.jp)

これも微生物のはたらきで言うと、使う油が変わるので、「2.ぶんかい」で説明した分子の形が変わっても、栄養として取り込めるように、微生物を改良している、と言うことができます。


微生物をつかったモノづくり

最初にお伝えした通り、昔から微生物をつかったモノづくり、というのは行われてきました。
しかし、Green Planet を例に紹介してきた通り、微生物を改良する技術が発達してきたことで、微生物の力を借りたモノづくり=バイオモノづくりの試みが広がっています。

Green Planet のような素材だけでなく、燃料や食べ物なども微生物の力を借りて作ろうという研究開発も世界中で行われているそうです。また、Green Planet の廃食用油の利用のように、栄養源とする原料として、これまで使われていなかった木材などを利用する研究もあるそうです。
私たちも、Green Planet を改良する研究だけでなく、将来的には二酸化炭素を原料に使えないか、という研究を進めています。今後の研究開発にもぜひ注目してください。

「CO2からの微生物による直接ポリマー合成技術開発」がNEDOグリーンイノベーション基金事業に採択 | 株式会社カネカ (kaneka.co.jp)

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