見出し画像

生分解のしくみの解明が楽しみ。研究を通じて、環境保全に貢献したい ー東京海洋大学 石田真巳教授

本日9月25日は "Global Goals day" 。 持続可能な開発目標、SDGsが採択された日です。今回は、研究の面から環境問題に取組む、東京海洋大学  石田 真巳(いしだ まさみ)教授のストーリーをお届けします。(記事担当:宅)

あつい、ギラギラした太陽の中、カネカとも共同研究をしている石田先生の研究室に向かいました。
生物のしくみを知りたいという探求心と、環境保全に利用できないかという思いを持ち、2つを掛け合わせてきた石田先生のストーリーを、みなさんにもぜひ、知っていただきたいです!

晴天(猛暑)に恵まれた東京海洋大学訪問ー海洋大の名にふさわしく、キャンパス内には船の展示

今の研究にいたるまで

お忙しいところ 笑顔で出迎えてくださった石田先生

ーーまずは石田先生の研究について、教えてください。

自然には、温泉のような高温で生きる好熱菌や、低温の環境で生きる好冷菌などがいます。火山や深海、塩湖などのように、高温、低温、高圧、高塩濃度、高アルカリなど、ふつうの生物が生きられない環境を「極限環境」と言います。わたしは極限環境の微生物が、どのように環境に適応して生きているかを研究し、環境保全へ利用していく、という研究をしています。

好熱菌・好冷菌のイメージ

カネカとの共同研究では、カネカ生分解性バイオポリマー Green Planet® (以下、Green Planet )について、分解する微生物が実際の海洋中でどう分布しているのかや、海洋中でどのような酵素がはたらいているのかを研究しています。

ーー日本周辺のさまざまな場所・深さの海水を採って、Green Planet を分解する微生物を研究してくださっていますよね。
今の研究に行きつくまでは、どのような経緯があったのでしょうか?

高校生の時、酵素や遺伝子が身体の中で動いて、生き物が生きているんだ、というのを実感して、これは面白い、もっと生物の分子レベルの仕組みを勉強したいと思ったんです。
大学に入り、講義で熱力学にもハマって、これを生物学に適用できたら面白いと考えていました。生物学と熱を掛け合わせられないかなと思っていたところ、好熱菌(高温の環境で生きる微生物)の研究をしている大島泰郎先生を知りました。通常の実験環境(37℃前後)でない状況(極限環境)の、生物の研究をするのは面白そうだと、大島先生の下で研究者を目指すことにしたんです。

ーーなるほど、2つの興味が合わさった、ピッタリの分野だったんですね。

はい。しかし、研究者になると、バイオの利用を考えている人たちから、好熱菌の酵素なんて、なんの役に立つの?と結構厳しく言われたりしましたね。今でこそ、PCRで大活躍していますが。

コロナウイルスの流行により、多くの人が「PCR」という言葉を耳にするようになりました。PCRの発展は、好熱性の細菌から得た酵素が大きく寄与したのです。

参照:神奈川県衛生研究所

そこで、低温の環境適応も追究したいと思っていたので、海に目を向けようと考えました。環境保全に利用できれば、一石二鳥だと思いましたね。
こうして低温環境の酵素の働きを色々研究する中で、深海微生物研究の第一人者である加藤千明先生と出会いました。加藤先生との出会いで、好圧菌(深海は圧力が高いので)に研究が広がりました。そして、ずーっと酵素の研究をしてきたこともあり、生分解性プラスチックの分解酵素の研究も始まったんです。PHBH(Green Planet の化学式の名称)も加藤先生から紹介してもらいました。

現在では、極限環境微生物を利用して、高圧適応のしくみや、生分解性プラスチックの分解、地下水の有効活用に関する研究などをしています。
地球の環境保全に貢献したいという思いは、ずっと心の中にありましたが、ようやく研究とつながってきたなと実感しはじめました。

ーーさまざまな興味を組み合わせられないか、常に考えていらっしゃったからこそ、ここまでの研究の発展につながっているのでしょうね。

この装置は、高圧環境の研究者は数少ないと、加藤先生引退のときに譲り受けた、と話す石田先生

生分解性プラスチックの研究への思い

ーー加藤先生の紹介で、PHBHを知ったとのことでしたが、PHBH を扱いはじめた時、どのように感じていましたか?

PHBHに出会う前も、農業や食品容器で使われる、他の生分解性プラスチックを知っていました。生分解性プラスチックというくらいだから、よく分解するんだろうと思っていましたが、海水中での分解試験をすると、驚いたことにほとんど分解しなかったんです。全然分解しないじゃないか、と思っていたところで、PHBHを初めて試験すると、よく分解したので、とても感心しました。他の生分解性プラスチックと比べると、分解する菌が圧倒的に多くみつかるんです。酵素が分解しやすい構造になってるんでしょうね。

ただ、既存のプラスチックに置き換わるためには、物性やコストなど、まだまだ改良が必要なのだと思います。Green Planet の改良をサポートするためにも、どのように酵素が分解するか、メカニズムを解明するのが楽しみです。

キャンパス内の港で海水中の分解試験ができる(ひもの先は東京湾)
実際の海で実験できる環境を活かして、色々な素材での実験を行っているそう

これからチャレンジしたいこと

ーー最後に、これから研究を通じてどのようなことにチャレンジしたいか教えてください。

これまでは、自分の興味として極限環境微生物のしくみを知りたいと、貫いてきました。今の興味はそれだけではなく、地球をキレイにすることをしたいと考えています。

正直なところ、以前は、環境問題はなんとなく遠いもの、という気がしていました。しかし、今日のように、最近は地球がマズイことになっていると感じます。

取材日は、6月なのに35℃を超える暑さとなり、関東甲信で、観測史上最も早い梅雨明けが発表されました。

ですから、マイクロプラスチックを増やさないよう、環境中でもきちんと分解する生分解性プラスチックの改良をサポートするなどの研究をして、環境保全に貢献したいです。

ーー本当に、今日の暑さはこたえますし、環境問題を、肌で感じるようになりましたよね。わたしたちも、Green Planet のさらなる改良や普及を通じて、環境問題の解決に貢献したいと思います。

石田先生、ありがとうございました!

おわりに

今回、石田先生と話していて、とてもワクワクしながら研究されている、と感じました。
企業との共同研究は、もっとドライに捉えられているものだと思っていましたが、Green Planet を生分解する微生物が、実際の海でどう分布していて、どういうメカニズムなのか、解明するのが楽しみだというのが、強く伝わってきました。

このnoteでは、環境保全に関わる人たちの想いを、今後もお伝えしていきます。ぜひ、これからの記事も、読んでくださいね。

石田先生の研究については、研究室のホームページもご覧ください。

<石田先生の研究テーマ、活動内容>
海洋環境、特に中層から深海の高圧・低温環境に生息する極限環境微生物を中心とする環境微生物を主な研究対象とし、微生物学・生化学・分子生物学・バイオテクノロジーなどの方法を駆使して、以下のテーマで研究しています。
1)酵素の高圧・低温環境への適応機構と利用 (脂質分解酵素、多糖類分解酵素、タンパク質分解酵素など様々な分解酵素)
2)海洋の低温・高圧環境における生分解性プラスチック分解に関係する微生物と酵素の探索
3)海洋環境中のプラスチック分解に関係する微生物と酵素の探索
4)地下水の有効利用のための鉄酸化微生物群の解析
5)バイオエタノール生産に適した海藻多糖類分解酵素
6)好熱菌の高温適応を支える特異ポリアミン

研究室ホームページより一部抜粋

Green Planet がどんな素材か、もっと知りたいという方は、こちらの記事もご参照ください!↓↓